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失われた読書を求めて(猫)

一瞬の熱いきらめきが全身をかけめぐるような瞬間を求めて、読書をしています。オススメの本、小説、評論、伝説、出来事を通して自らを語ります。

恋愛工学の男はいかにして恋愛障害の女性を「モノにする」のか|トイアンナ『恋愛障害』・熊代亨『ロスジェネ心理学』・藤沢数希『ぼく愛』

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目次

恋愛工学とは

男子総草食化時代における恋愛技術

 恋愛工学とは、藤沢数希が著書『ぼくは愛を証明しようと思う。』で提唱する恋愛学問である。男性がいかにして女性を恋愛的に攻略するかを研究対象とする学問であり、魅力的な女性にいかにアプローチし、いかに「モノにするか」についての戦略・テクノロジーの集大成である。

 元来、恋愛とは、相手方との双方向のコミュニケーションを通して実現してゆくパートナーシップであると考えられていた。だがしかし他者への配慮が過剰化した現代において、他者の尊厳への配慮を前提としたコミュニケーションが一般化し、恋愛のハードルが高まって、かつての時代では女性へ積極的にアプローチしていた男性も、どのように女性と接すればいいのか分からなくなり、草食化してしまったと言われる。

 ここで恋愛工学は、この草食化した男性に対し、いかにして女性と接するべきなのか、その戦略・テクノロジーを伝授するのである。

心を捨ててマシーンになる

 際限なく肥大化する相手方女性への配慮は、恋愛の不可能性を帰結する。
 これを克服するために「恋愛工学」が説くのは、相手方に対する配慮を捨て、あたかも自らが工学的機械であるかのような冷徹さで、淡々と手続きをこなすこと、これである。

 恋愛工学の実践者は、自らの心も、相手方への配慮も、すべて捨て去り、心のない機械のように、恋愛工学の説くアルゴリズムに沿って女性へアプローチする。

基本は、女性をけなすこと

 恋愛工学では、決して、相手方女性の気持ちを考えてはいけない。真剣に考えれば考えるほど、相手が可哀想になって、ためらってしまい、その結果、何も手出しができなくなるからである。したがって恋愛工学の実践者は、自らの心をマシーンにして、ことをなさなくてはならない。

 まずはじめにすることは、 「目の前にいる女性をけなすこと」、これである。

 見た目、容姿、振舞い、話し方、仕事、趣味、なんでもいいので女性をけなす。けなすことによってまず、自分が相手方に対して優位な立場にあることを植え付ける。相手方女性がそこで傷つくのも、恋愛工学の手続きの一環である。

 傷つけることによって女性を動揺させる。
 動揺させることによって女性に、「この人は何か普通の男と違う♡」と思わせるのである。

 これは、普段けなされる機会の少ない女性、男から「かわいい」「きれいだね」と褒めてもらうことの多い女性、すなわち恋愛偏差値の高い女性に対して、絶大な効果を発揮すると言われている。

温情主義的な報酬を与える

 けなした後、その次には、ちょっとした褒め言葉を与える。これは本心でなくともよい。あくまで工学的マシーンと化し、適当な点をでっちあげ、相手に心の報酬を与えるのである。

 ここで、恋愛工学士は、決して相手に媚びてはいけない。なぜなら女性をつけあがらせるからである。あくまで相手方が男性である自分より下位の存在であり、自分に対して抵抗できない存在であり、人間的に価値の低い人物であることを前提として女性に接する。

 すなわち相手方に、人間としての尊厳がないことを前提としたうえで温情主義的に褒める、という点にポイントがある。

女性は動揺し、ドキドキする

 傷つけられた後、褒められる、これによって女性は、心が動揺し、ドキドキする。そしてこのドキドキを、男性への恋愛感情であると思い込むのである。

 いやむしろ、恋愛工学が説くのは、けなされ、雑に扱われ、傷つけられ、精神的に振り回されることによって生じる感情こそが、真の恋愛感情であるということ、これである。

 自分をけなすような権限のある男性が、自分を温情主義的に賞賛してくれる。
 これこそ、女性の快楽であり、恋愛感情が芽生える瞬間であり、恋愛工学の肝である。

恋愛工学にかからない女性は「欠陥品」

 もちろん、そのような尊厳毀損的アプローチによって、ドキドキすることもなく嫌悪を抱いて、その場から逃げ去ってしまうような、「素直になれない」女性もいるかもしれない。しかし恋愛工学士は、そのようなことを気にしてはいけない。

 恋愛工学士は、口説きの失敗などという、そのような些事に構っている暇はないのである。

 いやむしろそれは、「失敗」ですらない。
 それは恋愛工学アプローチの失敗というよりも、相手方女性の側の「欠陥」なのである。

 恋愛工学のアプローチにかからない女性は、素直さを持たず、変性意識状態(宮台真司)に入る素質も持たない、恋愛に適さない人間であるからして、それはどれだけアプローチしたとしても、元から「モノにする」ことの不可能な女性なのだ。

恋愛工学は確率に賭ける

 そのような「欠陥女性」は無視をしよう。そして、次の女性を探せばよいのである。

 なぜなら恋愛工学の成功とは、確率の問題であり、恋愛工学士とは、確率に賭けて淡々と手続きをこなす恋愛マシーンになるべきであるからだ。

 ここにこそ、恋愛工学が工学と呼ばれる所以がある。「女性をモノにする」に際し、心や気持ち、感情を差し挟んではいけないのである。あたかも自らの所有するモノに接するかのごとき態度で、女性に接するのである。

 また、恋愛工学が「確率の問題」であるということは、「数を打てばあたる」ということなのである。

 仮に成功率が5%なであれば、20人にアプローチをして、1人の女性を「モノにする」ことができる。
 100人にアプローチすれば5人、500人にアプローチすれば25人の女性を「モノにする」ことができる。

 たった1人の男性が、25人もの女性を「モノにする」ことができるのである。

 これこそ恋愛工学が、「必然的に成功する恋愛テクノロジー」と呼ばれる所以である。

恋愛障害とは

対等なパートナーシップ作れない障害

 「恋愛障害」は、著名ブロガーであるトイアンナが著書『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』にて提唱した疾患概念である。

 恋愛障害とは、「対等なパートナーシップを作ることができず長期的に苦しむこと」である。

 これらの人々に共通するのは、寂しさに耐えられず、自分をコントロールできないという性質である。

自尊心が低く、寂しさを埋めたいが、愛し方を知らない

 恋愛障害者は、自尊心が低く、人と接しても卑屈になりがちであり、したがって他者からも下に見られることが多く、しばしば男性に都合の良く扱われる女性としてあらわれる。

 精神科医兼著名ブロガーの熊代亨は、著書『ロスジェネ心理学―生きづらいこの時代をひも解く』や、『「若作りうつ」社会』中で、「愛される」ことを至上の価値とするが他方で「愛する」方法を知らないという若者像を提示し、現代においてこれが一般化していることに警鐘を鳴らす。

 熊代亨は、現代においては、「愛されたい」「幸せにして欲しい」という受動的願望ばかりが先行して、相手を愛したい、幸せにしたいという能動的な願望が欠如し、「モテるための方法論」ばかりが、若者の間で流行していることを指摘する。
 これは地域共同体の失われた新興住宅地や高層マンション・アパートに人々が移住し、核家族化によって親の一方向の「愛」のみが至上価値となった子供たちの成れの果てである。

 そのような時代の人間は、特定の親にいかに愛されるかが子供時代の価値の源泉となっていたため、自ら能動的に愛することを知らない。一方で他者に対して受動的になり、また他方では、「愛されていない状態」「モテていない状態」に対して、圧倒的な恐怖を抱くのである。

寂しさに耐えられない恋愛障害者

 共同体から愛を受けまた愛を与える機会を失った社会で子供は、親からの愛のみが、自尊心の源泉となる。親からの愛とは、一方的な愛であり、身体の所有であり、精神の支配である。専業主婦家庭においては、「母からの愛」が子に対する絶大な支配として働き、あるいは共働き家庭においては、「両親からの愛の欠如」が子に対する絶大なトラウマとして働く。

 「専業母からの抑圧的な愛」「働くマザーからの愛の欠如」

 いずれに形式においても共通するのは、愛の供給源が一本化したことの弊害である。ここでは、様々な関係者が複雑に絡み合うかつての地域共同体が消滅したことにより、子供にとっての積極性発露や、多様的成長の機会が失われているというところに問題がある。

 こうして現代人は、「親からの愛」という価値によってのみ自らの存在意義が規定されるようになり、親から離れた後は、常に「愛されていない」ことの飢餓感に悩まされることになる。
 「愛されていない」状態の自らには「人間としての価値が無い」のであり、かといって愛した経験がないため「愛し方」を知らない。

 結果、自尊心が低く、寂しさを埋めて自尊心を満たしたいが、能動的に動いて傷付きたくない、相手の愛し方は分からないような人間が、大量に発生する(統計根拠メモは拙記ヨミメモを参照)。

 こうして人は、恋愛障害に罹患する。

恋愛工学と恋愛障害の出会い

恋愛工学は恋愛障害者を振るい分ける

 前述した恋愛工学のテクノロジーを一読すると、正常に健全で成熟した人間であれば、恋愛工学に対して「キモい」という感情しか抱かないだろう。

 しかしながら当該アプローチに惹かれてしまう人間がいるのである。
 それこそ、寂しさに飢え、かつ自尊心の低い恋愛障害者である。

 恋愛工学アプローチを確率論的にくり返す男性は、単に「恋愛障害者」の女性を探しているに過ぎない。
 すなわち、「女性をけなす」アプローチとは、「人格を毀損をされても激怒しない恋愛障害者の女性を見つけるための振るい分け」のことなのである。

 このフィルタリングを通った女性のみ、恋愛工学士は「モノにすることができる」のである。

恋愛工学にハマる男性は病気

 恋愛工学にハマる男性とは、まさに 「人を傷つけ、支配可能な人間しか愛せない」という疾患にかかった人間である。

 そして、トイアンナの新著『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』では、このような「恋愛工学男」をも、積極的に女性を傷つけることでしか実存を保てない「加害男性」として、「恋愛障害」の下位概念に措定する。

 したがって、恋愛障害であるところの恋愛工学に勤しむ男性は、今すぐ『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』を読み、自分のキモさを自覚した方がよろしい。

 

参考文献

トイアンナ『恋愛障害』

 寂しさに耐えられず自尊心を保てない人に対するアドヴァイスを記した名著。3冊くらい家に常備しておいて、恋愛障害に苦しむ人がいたらいつでも差し上げれるようにしておきたい。

恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか? (光文社新書)

恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか? (光文社新書)

 

藤沢数希『ぼくは愛を証明しようと思う』

 恋愛障害者の女性しか相手にできない未成熟な男性の妄想書。 

ぼくは愛を証明しようと思う。

ぼくは愛を証明しようと思う。

 

熊代亨『ロスジェネ心理学』

 我々の飢餓感がいかにして成立するのか歴史的に検証した名著。

ロスジェネ心理学―生きづらいこの時代をひも解く

ロスジェネ心理学―生きづらいこの時代をひも解く

 

熊代亨『「若作りうつ」社会』

 恋愛・結婚相手との健全なパートナーシップとはいかにして可能かを記した名著。

「若作りうつ」社会 (講談社現代新書)

「若作りうつ」社会 (講談社現代新書)

 

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